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第V部 味わい / 第21章

カッピングとフレーバーホイール

カッピングの手順、評価項目、フレーバーホイールの使い方、味を言葉にする方法です。

更新日 2026-10-02

コーヒーの生産者、輸入業者、焙煎所は、どうやって豆の品質を比べ、価格を決めているのでしょうか。その共通の物差しになっているのがカッピングです。決められた条件で粉に湯を注ぎ、スプーンですすって味と香りを評価します。

カッピングはプロのための技術ですが、考え方を知っておくと、家庭でコーヒーを味わうときにも役立ちます。この章では、カッピングの手順、評価の項目、新しい評価方式、そして味を言葉にするためのフレーバーホイールの使い方を紹介します。

カッピングの目的

カッピングは、主に次の目的で行われます。

  • 品質の評価:生豆の買い付けで、豆の良し悪しや欠点の有無を判断する
  • 特徴の把握:産地や品種、精製方法による味の違いを知る
  • 焙煎の確認:焙煎の仕上がりや、ロットごとのばらつきを確かめる
  • ブレンドの設計:どの豆をどう組み合わせるかを考える

抽出の条件をできるだけそろえることで、「淹れ方の違い」ではなく「豆そのものの違い」を比べられるようにしているのが特徴です。

SCA(旧 SCAA)のカッピング手順

長く業界の標準として使われてきたのが、SCAA(現在の SCA)が定めたカッピングプロトコルです。2005 年版の文書には、次のような条件が定められています。

項目 条件
焙煎 カッピングの 24 時間以内に焙煎し、8 時間以上休ませる
焙煎度 浅煎り〜やや浅い中煎り(Agtron で豆のまま約 58、粉で約 63)
焙煎時間 8〜12 分
比率 湯 150 mL に対して粉 8.25 g
挽き目 ペーパードリップより少し粗め(米国標準 20 メッシュのふるいを 70〜75% が通る)
杯数 1 サンプルにつき 5 杯以上(均一性を見るため)
水 においがなく清潔な水。蒸留水や軟水器を通した水は使わない

評価の流れ

  1. 乾いた香り(フレグランス):挽いてから 15 分以内に、カップのふたを開けて粉の香りを嗅ぎます
  2. 注湯:粉に湯を注ぎ、表面にできる粉の層(クラスト)をそのまま 3〜5 分置きます
  3. クラストを崩す(ブレイク):スプーンで 3 回かき混ぜ、立ちのぼる香り(アロマ)を嗅ぎます
  4. すする:液体が約 70℃(注湯から 8〜10 分)まで冷めたら、スプーンで勢いよくすすり、口の中全体に広げて味わいます
  5. 冷めながら評価する:温度が下がるにつれて感じ方が変わるため、何度かに分けて評価します

勢いよくすするのは、液体を霧状にして口全体と鼻の奥に香りを届けるためです。

評価項目と点数

2005 年版のカッピングフォームでは、次の 11 項目を記録します。

項目 見るポイント
フレグランス/アロマ 粉の香りと、湯を注いだあとの香り
フレーバー 口に含んだときの味と香りの総合的な印象
アフターテイスト 飲み込んだあとに残る味と香り
アシディティ 酸味の質(明るさ、果実味など)
ボディ 口の中での重さ、質感
バランス 各要素の調和
ユニフォーミティ 5 杯の味のそろい方
クリーンカップ 欠点の風味がないこと
スイートネス 甘さ
ディフェクト 欠点(減点)
オーバーオール 総合評価

合計点(100 点満点)によって、次のように分類されています。

点数 評価 分類
95〜100 Exemplary(模範的) Super Premium Specialty
90〜94 Outstanding(際立っている) Premium Specialty
85〜89 Excellent(非常に優れている) Specialty
80〜84 Very Good(とても良い) Premium
75〜79 Good(良い) Usual Good Quality

一般には「80 点以上がスペシャルティコーヒー」と説明されることが多いですが、2005 年版の文書の表では、80〜84 点は Premium、85 点以上が Specialty と区分されています。どの文書を基準にするかで表現が変わる点に注意してください。

新しい評価方式:CVA

SCA は、約 20 年使われてきたカッピングフォームに代わる新しい評価の仕組みとして、Coffee Value Assessment(CVA)を開発しました。2023 年に試行版が公開され、早期導入の取り組みを経て、従来の 2004 年版プロトコルとフォームに置き換わる規格として位置づけられています。

CVA の大きな特徴は、「描写」と「評価」を分けたことです。

  • 記述的評価(Descriptive Assessment):どんな味がするかを、良し悪しの判断を入れずにできるだけ客観的に記述します。決められた用語の一覧から当てはまるものを選ぶ方式が使われます
  • 情緒的評価(Affective Assessment):その味が評価者にとってどれくらい好ましいか、品質の印象を評価します。中央を「普通」とする 9 段階の尺度が使われます
  • 物理的評価:生豆の大きさや欠点、焙煎の色など
  • 外部的な属性:農園名、精製方法、品種、認証など、豆にまつわる情報

従来のフォームは、描写と評価が一つの点数の中に混ざっていました。CVA では、「どんな味か」と「それが好ましいか」を分けて記録することで、評価者の好みや市場の違いを、より正直に扱えるようにしています。

フレーバーホイールの使い方

カッピングで感じた味を言葉にするための道具が、フレーバーホイールです。現在広く使われているのは、SCA(当時の SCAA)と World Coffee Research(WCR)が 2016 年に発表した「Coffee Taster’s Flavor Wheel」です。この図は、WCR が科学的な手法で作った味と香りの用語集「Sensory Lexicon」をもとにしています。

フレーバーホイールは、内側が大きな分類、外側に行くほど具体的な言葉になるように並んでいます。使い方の基本は次のとおりです。

  1. 内側から探す:まず「フルーティ」「ナッツ・ココア」「甘い香り」のような大きな分類から、感じたものに近いところを選びます
  2. 外側へたどる:フルーティなら「ベリー」「柑橘」など、さらに外側の具体的な言葉に進みます
  3. 隣も見る:ホイールでは、似た印象の言葉が隣り合うように並べられています。迷ったら隣の言葉も候補にします
  4. 言葉にできなくてもよい:外側まで行けなければ、内側の分類で止めても構いません

このサイトのフレーバーホイールでは、WCR の Sensory Lexicon と SCA のホイールの分類を参考に、項目ごとの説明を日本語で読めるようにしています(配置と配色は独自のものです)。

家庭でできるテイスティングの練習

カッピングの道具がなくても、味を感じ分ける練習はできます。

  • 2つを並べて比べる:一杯だけを味わうより、2 種類を並べて比べるほうが違いがわかりやすくなります。産地違い、焙煎度違い、同じ豆の淹れ方違いなどを試してみましょう
  • 温度を変えて味わう:熱いとき、少し冷めたとき、ぬるくなったときで、甘さや酸味の感じ方が変わります
  • 言葉をメモする:感じたことを短い言葉で書き留めます。最初は「明るい」「重い」「すっきり」といった言葉で十分です
  • 身近な食べ物で覚える:レモン、りんご、ナッツ、チョコレート、はちみつなどを実際に味わって、言葉と感覚を結びつけます
  • 他の人と話す:同じコーヒーを飲んだ人と感想を比べると、自分にない表現に出会えます

まとめ

  • カッピングは、抽出条件をそろえて豆そのものの違いを比べるための方法です
  • SCAA の手順では、湯 150 mL に粉 8.25 g、クラストを 3〜5 分置いて崩し、約 70℃ まで冷めてから味を評価します
  • 従来のフォームは 11 項目を点数化し、合計点で品質を区分します(一般には 80 点以上がスペシャルティと説明されます)
  • 新しい CVA は、「どんな味か」と「それが好ましいか」を分けて評価します
  • フレーバーホイールは、内側の大きな分類から外側の具体的な言葉へとたどって使います

関連する章とツール

出典・参考文献

  1. SCAA Cupping Protocols(April 2005)(Specialty Coffee Association of America)
  2. Understanding the New Coffee Value Assessment(Tastify)
  3. A System to Assess Coffee Value(June 2024)(Specialty Coffee Association)
  4. Sensory Lexicon(World Coffee Research)
  5. SCAA Unveils a Whole New Coffee Taster's Flavor Wheel(Daily Coffee News)