同じ産地の同じ豆でも、どこまで焙煎するかで味は大きく変わります。浅く煎れば果実のような酸味が、深く煎ればしっかりした苦味とコクが前に出ます。この「どこまで煎ったか」を表すのが焙煎度です。
この章では、日本でよく使われる焙煎度の呼び名と味の傾向、焙煎度を客観的に測る方法、そして焙煎機の方式の違いを整理します。焙煎中に豆の中で起きる化学変化は第10章 焙煎の科学を参照してください。
日本でよく使われる8段階の呼び名
全日本コーヒー協会の解説では、焙煎度を浅いほうから次の8段階で表しています。さらに大きく「浅煎り」「中煎り」「深煎り」の3つに分けて説明されることも多いです。
| 区分 | 呼び名 | 見た目と味の傾向 |
|---|---|---|
| 浅煎り | ライトロースト | 黄色がかった小麦色。焙煎としては最も浅い段階 |
| 浅煎り | シナモンロースト | シナモンのような色。酸味がはっきりしている |
| 中煎り | ミディアムロースト | 茶色。軽やかな味わい |
| 中煎り | ハイロースト | やや深い茶色。喫茶店などで広く使われる |
| 中煎り | シティロースト | 鮮やかなコーヒーブラウン。標準的な焙煎度とされる |
| 深煎り | フルシティロースト | 濃い茶色。アイスコーヒーにも使われる |
| 深煎り | フレンチロースト | 黒に近い茶色。強い苦味 |
| 深煎り | イタリアンロースト | ほぼ黒色。強い苦味と濃厚な味わい |
焙煎度と味の関係
全日本コーヒー協会は「浅煎りは酸味が強く、深煎りは苦味が強くなる」と説明しています。この傾向は、焙煎中の酸と苦味成分の変化から理解できます。
- 浅煎り:焙煎中に増えた酸がまだ多く残っており、果実のような酸味と、産地や品種ごとの香りの違いが感じやすい段階です。スペシャルティコーヒーを扱う店では、産地の個性を伝えるために浅煎りから中煎りを選ぶことが多くあります。
- 中煎り:酸味と苦味、甘さのバランスがとれた段階です。ナッツやチョコレートのような香りも出てきます。
- 深煎り:酸が分解されて減り、焙煎由来の苦味とコクが前面に出ます。小川珈琲の解説でも、深煎りは強い苦味としっかりしたボディが特徴で、エスプレッソに好まれると紹介されています。
焙煎度が深くなるほど、豆そのものの個性よりも焙煎由来の風味が強くなっていきます。そのため「どの焙煎度が良い」というより、豆の特徴と、どう飲みたいか(ストレートで飲むか、ミルクと合わせるか、アイスにするか)によって適した焙煎度が変わると考えるのがよいでしょう。
ハゼと焙煎度の対応
焙煎度は、焙煎中のハゼのタイミングと対応づけて説明されることもあります。一般には、1ハゼが始まるころが浅煎り、1ハゼが終わってから2ハゼが始まるまでが中煎り、2ハゼが始まってから先が深煎りの領域とされます。
America’s Test Kitchen の解説では、1ハゼが豆の温度でおよそ196〜199℃、浅煎りで仕上げる温度が207℃前後、中煎りが214℃前後、深煎りが227℃前後と紹介されています。ただし温度の値は焙煎機の温度計の位置で大きく変わるため、他の焙煎機の数字をそのまま当てはめることはできません。
焙煎度を数値で測る:色値
焙煎度を言葉だけでなく数値で揃えるために、豆や粉の色を光学的に測る方法があります。代表的なのが Agtron(アグトロン)社の測色計です。
Agtron の測色計は、試料に赤外線に近い光を当てて表面の反射率を測ります。焙煎が深いほど豆は光を吸収して反射が少なくなるため、数値は小さくなります。浅煎りほど数値が大きく、深煎りほど小さいという関係です。業界では Agtron の「グルメスケール」と呼ばれる尺度がよく使われ、焙煎所どうしで焙煎度を伝え合うときの共通言語になっています。
また、豆のままの色と挽いた粉の色を両方測り、その差から「豆の外側と内側の焙煎の進み方の差」を確認する方法もあります。外側だけが深く、内側が浅い焙煎は、味のまとまりを欠くことがあるためです。
焙煎機のしくみ
焙煎機の基本的な構成は、どの方式でもほぼ共通です。小川珈琲の解説によると、焙煎機は温度計、ドラム(豆を入れて回す釜)、熱源、ダンパー(排気量を調整する弁)、冷却装置からできています。
熱が豆に伝わる経路は3つあります。
- 伝導熱:熱くなったドラムの鉄板に豆が触れて伝わる熱
- 対流熱:熱い空気(熱風)が豆の周りを流れて伝わる熱
- 輻射熱:炎や熱い壁から放射される熱
焙煎機の方式の違いは、この3つの熱をどんな割合で使うかの違いだと考えるとわかりやすくなります。
直火式・半熱風式・熱風式
日本の焙煎機メーカーである富士珈機は、小型焙煎機のドラムを次の3つの方式に分けて説明しています。
| 方式 | ドラムの構造 | 主な熱の伝わり方 |
|---|---|---|
| 直火式 | 側面に穴が開いており、バーナーの熱が穴を通って豆に届く | 炎からの熱と伝導熱 |
| 半熱風式 | 側面は鉄板で覆われ、後方に穴があり熱風が流れる | 鉄板からの伝導熱と熱風 |
| 熱風式 | 燃焼室を分け、温めた空気だけをドラムに送り込む | 主に熱風(対流熱) |
味の傾向については、焙煎者やメーカーによって説明が分かれます。一般には、熱風式は雑味の少ないすっきりした味に、直火式は香ばしさのはっきりした味に、半熱風式はその中間で調整できる幅が広い、と語られることが多いです。ただし富士珈機も、ダンパーや火力の調整によって同じ機械でも多様な味を作れると述べています。方式だけで味が決まるわけではなく、焙煎者の操作の影響が大きいことを覚えておきましょう。
ドラム式と流動層式
ここまで説明した直火式・半熱風式・熱風式は、いずれも回転するドラムの中で豆を撹拌するドラム式です。
これとは別に、下から強い熱風を吹き上げて豆を浮かせながら焙煎する流動層式(フルイドベッド)と呼ばれる方式もあります。豆が空中で舞うため均一に熱が当たりやすく、短時間で焙煎できるのが特徴です。家庭用の小型焙煎機や、試験用の焙煎機にもこの方式が使われています。
規模による焙煎機の違い
焙煎機は、一度に焙煎できる量によって大きさが大きく異なります。
- サンプルロースター:数十〜数百グラムを焙煎する試験用の機械。生豆を買い付ける前の品質確認(カッピング)に使われます
- 小型焙煎機:1〜5kg 程度。自家焙煎の喫茶店やロースタリーカフェで多く使われます
- 中・大型焙煎機:数十キロ以上。卸売や工場での生産に使われます
大きな焙煎機ほど、豆の量に対する熱の伝わり方が変わるため、小型機で作った焙煎の設計をそのまま大型機に移すことはできません。
家庭での焙煎
焙煎は専門店だけのものではありません。手網やフライパン、手回しのロースター、家庭用の電動焙煎機などで、自分で生豆を焙煎することもできます。小川珈琲の解説では、焙煎機を共同で使う「シェアードロースティング」の仕組みや、家庭用焙煎機の普及も紹介されています。
家庭で焙煎するときは、次の点に注意してください。
- 煙とにおい:中煎り以降は煙が多く出ます。換気扇の下や屋外で行います
- チャフ:剥がれた薄皮が大量に舞います。チャフは燃えやすいので、火の近くにためないようにします
- 火災・やけど:焙煎中の豆や器具は高温です。その場を離れないようにします
- 冷却:焙煎が終わったら、うちわやドライヤーの冷風などですぐに冷まします。余熱で焙煎が進みすぎるのを防ぐためです
手網焙煎は熱のかかり方にむらが出やすいため、最初は焙煎度をそろえるのが難しく感じるかもしれません。焙煎のたびに時間と色を記録しておくと、改善の手がかりになります。
まとめ
- 日本ではライトからイタリアンまでの8段階の呼び名がよく使われますが、呼び名の指す色は店によって幅があります
- 一般に、浅煎りは酸味、深煎りは苦味とコクが強くなります
- 焙煎度を数値でそろえるには、Agtron などの測色計で色値を測る方法があります
- 焙煎機の方式の違いは、伝導熱・対流熱・輻射熱をどう組み合わせるかの違いです
- 方式による味の傾向は語られますが、焙煎者の操作による違いも大きく、方式だけで味は決まりません
関連する章とツール
出典・参考文献
- 焙煎・配合・粉砕(全日本コーヒー協会)
- 珈琲の教科書 第4章(小川珈琲)
- 10月特集:ロースターの構造(第1回)(富士珈機)
- Agtron Spectrophotometers(Green Coffee Collective)
- The Science of Coffee Roasting(America's Test Kitchen)