同じ豆、同じレシピで淹れても、挽き目を少し変えるだけで味ははっきり変わります。挽き目は抽出の速さを決める最も大きな要素のひとつで、家庭で味を調整するときに一番よく動かすつまみでもあります。
この章では、挽き目がなぜ抽出に効くのか、粉の「大きさのばらつき」がどう味に影響するのか、そしてグラインダーの種類と使い方を整理します。抽出の基本的な考え方は第12章 抽出理論、機種ごとの挽き目の目安はグラインダー挽き目対応表を参照してください。
粒の大きさと表面積
豆を挽くと、湯に触れる表面積が一気に増えます。同じ重さの粉でも、粒が細かいほど表面積は大きくなり、粒の中心から表面までの距離も短くなります。そのため細かく挽くほど成分は速く溶け出し、粗く挽くほどゆっくり溶け出します。
抽出方式によって、湯と粉が触れている時間は大きく異なります。エスプレッソは30秒前後、ハンドドリップは2〜4分、フレンチプレスは4分前後、水出しは数時間以上です。接触時間が短い方式ほど細かく、長い方式ほど粗く挽くのは、抽出の進み具合をそろえるためです。
Honest Coffee Guide がまとめている抽出方式ごとの粒度の目安は次のとおりです。
| 抽出方式 | 粒度の目安(μm) |
|---|---|
| ターキッシュ | 40〜220 |
| エスプレッソ | 180〜380 |
| モカポット | 360〜660 |
| エアロプレス | 320〜960 |
| ハンドドリップ(V60) | 400〜700 |
| サイフォン | 375〜800 |
| フレンチプレス | 690〜1300 |
| コールドブリュー | 800〜1400 |
全日本コーヒー協会の解説でも、挽き方を粗挽きから極細挽きまでの段階に分け、抽出器具に合わせて選ぶことが紹介されています。
粒度分布:大きさのばらつきが味を左右する
実際に挽いた粉は、すべてが同じ大きさにはなりません。大きな粒もあれば、粉のように細かい粒も混ざります。この大きさのばらつきを粒度分布と呼びます。
一般に、コーヒーの粒度分布は、設定した挽き目に対応する大きな山と、数十μm程度の細かい粒(微粉)の小さな山を持つ形になります。豆が割れるたびに、ほぼ同じ大きさの破片と一緒に細かい破片も飛び散るためだと説明されています。
天文学者でコーヒーの研究でも知られる Jonathan Gagné は、24台のエスプレッソ用グラインダーで測った300の粒度分布を分析し、実際には「微粉」「中間の大きさ」「設定した大きさ」の3つの成分を組み合わせるとよく再現できると報告しています。また、エスプレッソで挽き目を合わせるとき、私たちは粒の平均の大きさよりも、微粉の量を調整していると言ってよい、とも述べています。
粒度のばらつきが大きいと、一杯の中で細かい粒は過抽出に、粗い粒は未抽出になり、両方の欠点が同時に出やすくなります。微粉が多いと、ドリップではフィルターが目詰まりして湯が落ちにくくなることもあります。
刃の種類
グラインダーの刃には大きく分けて次の種類があります。
| 種類 | しくみ | 特徴 |
|---|---|---|
| コニカル刃(円錐刃) | 円錐形の内刃と外刃のすき間で砕く | 手挽きミルや家庭用電動ミルに多い。回転数が低くても挽ける |
| フラット刃(平刃) | 平らな2枚の円盤状の刃を向かい合わせて砕く | 業務用に多い。比較的均一な粒になりやすいとされる |
| カット式 | 臼歯状の刃で豆を切るように砕く | 日本のドリップ向け電動ミルに見られる |
| プロペラ式 | 回転する刃で豆を叩き割る | 安価で手軽だが、挽く時間で粒度が決まり、ばらつきが大きい |
コニカル刃とフラット刃の違いについて、Gagné の分析では、コニカル刃は平均すると分布の山が一つにまとまりにくく、ばらつきも大きい傾向が見られました。ただし重なりも大きく、個々の機種ではコニカル刃がフラット刃を上回る例もあると述べています。刃の種類だけで良し悪しを決めることはできません。
プロペラ式は、粒の大きさを挽き目の設定ではなく「挽いている時間」で調整するため、どうしても大きさがばらつきます。手軽に始める道具としては十分ですが、味を安定させたい場合は、臼刃式のグラインダーを選ぶと調整しやすくなります。
手挽きと電動
手挽きミルは、価格に対して刃の精度が高い機種が多く、音が静かで持ち運びもできます。一方で、一度にたくさん挽くのは手間がかかります。
電動グラインダーは、挽くのが速く、毎日たくさん淹れる場合や、エスプレッソのように細かく挽く場合に向いています。粉が機械の中に残る量(リテンション)や、モーターの熱が粉に伝わるかどうかも、選ぶときの観点になります。
どちらを選ぶ場合も、「挽き目を細かく再現性よく調整できるか」「掃除がしやすいか」を確認するとよいでしょう。
ゼロ点と挽き目の数え方
多くのグラインダーでは、2枚の刃が触れ合う位置をゼロ点とし、そこから何クリック(何目盛)開いたかで挽き目を表します。ゼロ点は個体ごとに少しずつ違い、使っているうちにずれることもあります。
インターネット上の「この機種なら〇クリック」というレシピを参考にするときは、ゼロ点の決め方が同じかどうかに注意してください。グラインダー挽き目対応表の値も、こうした個体差を含む目安です。
静電気と RDT
挽いた粉が容器のまわりに飛び散ったり、くっついたりするのは静電気のためです。豆どうしがこすれ合うことで電荷が生じ、同じ電荷を帯びた粉が反発し合います。
挽く前の豆に数滴の水をつけて静電気を抑える方法を RDT(Ross Droplet Technique)と呼びます。2023年に学術誌 Matter に発表されたオレゴン大学の Christopher Hendon らの研究は、豆に含まれる水分が挽くときに生じる電荷の量を左右することを示しました。Daily Coffee News の記事によると、研究者は豆 20 g に対して 0.1 mL 程度の水から試し、0.5 mL 未満の範囲がよいと述べています。水を加えると静電気と粉のかたまりが減り、エスプレッソでは粉が密に詰まって抽出時間が延び、より濃い抽出と、一杯ごとのばらつきの少なさにつながったと報告されています。
挽き目の合わせ方
新しい豆やグラインダーで挽き目を決めるときは、次の手順が使えます。
- 目安から始める:抽出方式の粒度の目安と対応表を参考に、最初の挽き目を決めます
- 比率と量は固定する:挽き目以外の条件(豆量、湯量、湯温、注ぎ方)を変えずに淹れます
- 味を見る:酸っぱく薄い、余韻が短いなら細かく。苦く渋い、後味がざらつくなら粗くします
- 時間も見る:ドリップでは落ちきるまでの時間、エスプレッソでは抽出時間も記録します
- 少しずつ動かす:一度に大きく変えず、数クリックずつ動かして比べます
お手入れ
グラインダーの中には、細かい粉や豆の油分が少しずつたまっていきます。古い粉や油は酸化して嫌なにおいの原因になるため、定期的にブラシで刃のまわりを掃除しましょう。分解して掃除できる機種では、説明書に従って刃を外して清掃します。水洗いできない部品も多いので注意してください。
まとめ
- 細かく挽くほど表面積が増え、抽出が速く進みます。接触時間が短い方式ほど細かく挽きます
- 粉の大きさには必ずばらつきがあり、その分布が味の安定性に影響します
- 刃の種類には傾向がありますが、機種ごとの差も大きく、種類だけで良し悪しは決まりません
- ゼロ点は個体差があり、他人のクリック数は目安にとどまります
- 少量の水で静電気を抑える RDT は、研究でも効果が報告されています
関連する章とツール
出典・参考文献
- What I learned from analyzing 300 particle size distributions for 24 espresso grinders(Coffee ad Astra(Jonathan Gagné))
- Study: A Pre-Grind Spritz Can Improve Espresso by Reducing Static and Clumping(Daily Coffee News)
- Moisture-controlled triboelectrification during coffee grinding(Matter, 2023)(Méndez Harper, Hendon ほか)
- Coffee Grind Size Chart(Honest Coffee Guide)
- 焙煎・配合・粉砕(全日本コーヒー協会)