粉を湯に浸けて、しばらく置いてから液体を分ける。これが浸漬式の基本です。紅茶をティーポットで淹れるのと同じ考え方で、注ぎ方の技術にあまり左右されず、毎回同じ味を出しやすいのが大きな長所です。
この章では、フレンチプレス、エアロプレス、サイフォン、浸漬式ドリッパーなどの代表的な器具と、浸漬式に近い伝統的な淹れ方であるターキッシュコーヒー、そして蒸気の圧力を使うモカポットを紹介します。
浸漬式と透過式の違い
ハンドドリップのような透過式では、新しい湯が次々と粉の層を通り抜けていきます。粉のまわりの液体はいつも薄いため、成分は溶け出しやすい状態が続きます。
一方の浸漬式では、粉と湯が同じ容器の中にとどまります。時間がたつほど液体の濃さが上がり、粉から成分が溶け出す勢いはだんだん弱くなっていきます。そのため、浸漬式は透過式に比べて「時間を多少延ばしても過抽出になりにくい」と言われます。
| 比べる点 | 透過式(ハンドドリップ) | 浸漬式 |
|---|---|---|
| 味を左右する技術 | 注ぎ方の影響が大きい | 時間と挽き目でほぼ決まる |
| 再現性 | 慣れが必要 | 安定しやすい |
| 味の傾向 | すっきり、クリア | ボディがあり、まろやか(器具による) |
| 時間の許容範囲 | 狭め | 広め |
フレンチプレス
フレンチプレスは、ガラスなどの容器に粗く挽いた粉と湯を入れ、数分置いたあと、金属のフィルターがついたプランジャーを押し下げて粉を分ける器具です。
金属のフィルターは油分を通すため、コーヒーの油分や香りがそのまま液体に残り、厚みのある口当たりになります。一方で、細かい粉も一部通るため、カップの底に粉がたまることがあります。
基本の淹れ方(目安)
- 粗挽き(Honest Coffee Guide の目安で 690〜1300 μm)の粉を、湯の量の 1/15 程度入れる(湯 300 g なら粉 20 g)
- 90〜95℃ 前後の湯を全量注ぎ、軽く混ぜる
- ふたをして 4 分前後待つ
- プランジャーをゆっくり押し下げ、すぐにカップに注ぎ切る
エアロプレス
エアロプレスは、筒の中で粉と湯を混ぜ、プランジャーで空気を押し込んで、紙のフィルターを通して液体を押し出す器具です。AeroPress 社によると、発明者のアラン・アドラーは、一杯分のコーヒーをおいしく淹れるのが難しいという会話をきっかけに 2003 年から試作を始め、2005 年に発売しました。
浸漬と加圧を組み合わせた方式で、短時間で抽出でき、紙のフィルターを使うためすっきりした味になります。軽くて丈夫なため、旅行やアウトドアでも人気があります。
通常の淹れ方とインバート(逆さ)
- 通常の向き:フィルターをつけた筒をカップに載せ、粉と湯を入れて混ぜ、プランジャーで押し出します。押す前から少しずつ液体が落ちます
- インバート:プランジャーを少し差し込んだ状態で筒を逆さにし、粉と湯を入れて浸けておき、フィルターをつけてからひっくり返して押し出します。押すまで液体が落ちないため、浸漬式として淹れられます
エアロプレスはレシピの自由度が非常に高く、比率や時間、挽き目の組み合わせで味が大きく変わります。各国で愛好家がレシピを競う大会も開かれています。インバートは器具が倒れると熱湯がこぼれる危険があるので、安定した場所で行ってください。
サイフォン
サイフォンは、上下2つのガラス容器を使う器具です。下のフラスコの水を加熱すると、水蒸気の圧力で湯が上の容器(ロート)に押し上げられます。そこに粉を入れて撹拌し、浸漬で抽出します。加熱をやめると、下のフラスコが冷えて圧力が下がり、抽出液がフィルターを通って下に吸い戻されます。
湯温が高く保たれやすく、香りが立ちやすいのが特徴です。器具の動きが見た目にも美しく、日本の喫茶店で長く親しまれてきました。加熱にはアルコールランプやビームヒーター、ガスバーナーが使われます。ガラス器具を扱うため、割れやすさと火の扱いに注意が必要です。
浸漬式ドリッパー(クレバーなど)
見た目はハンドドリップのドリッパーですが、底に弁がついていて、サーバーやカップに載せたときだけ弁が開いて液体が落ちる器具があります。クレバーコーヒードリッパーなどが代表例です。
粉と湯を入れてしばらく浸けておき、時間になったらカップに載せて落とします。浸漬式の安定した味と、紙のフィルターによるすっきりした味の両方を得やすい器具です。ハンドドリップで味が安定しないと感じる人にも向いています。
ターキッシュコーヒー(ジェズベ)
ターキッシュコーヒーは、ジェズベ(チェズベ)と呼ばれる柄の長い小鍋に、ごく細かく挽いた粉と水(好みで砂糖)を入れて火にかけ、泡が立ちのぼるまで煮出す淹れ方です。粉を漉さずにカップに注ぎ、粉が沈むのを待ってから上澄みを飲みます。
UNESCO の解説によると、トルコのコーヒー文化と伝統は 2013 年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。友情ともてなしの象徴であり、婚約の儀式や祝日などの場で大切な役割を果たしてきました。飲み終えたカップに残った粉の模様で占いをする習慣もあります。
粒度は Honest Coffee Guide の目安で 40〜220 μm と、エスプレッソよりさらに細かい挽き目を使います。
モカポット
モカポットは、下のボイラーに水、中央のバスケットに粉を入れて直火にかけ、ボイラー内の蒸気の圧力で湯を押し上げ、粉の層を通して上の容器に抽出する器具です。厳密には浸漬式ではなく、圧力をかけた透過式ですが、家庭で濃いコーヒーを淹れる器具として並べて紹介します。
Bialetti 社によると、八角形のアルミ製モカポット「モカ・エキスプレス」は、1933 年にアルフォンソ・ビアレッティが考案しました。イタリアの家庭で広く使われ、エスプレッソのような濃いコーヒーを手軽に淹れられる道具として世界に広まりました。
エスプレッソマシンほどの圧力はかからないため、クレマはほとんどできませんが、濃厚で力強い味になります。
使うときのポイント
- バスケットの粉は平らにならすだけで、強く押し固めない(圧力が上がりすぎるため)
- 安全弁より上まで水を入れない
- 抽出が終わりかけてゴボゴボと音がし始めたら火から下ろす(焦げた味になるのを防ぐ)
まとめ
- 浸漬式は粉と湯を一緒に置いて抽出する方式で、技術に左右されにくく、味が安定しやすい方式です
- フレンチプレスは油分を通す金属フィルターで、厚みのある味になります
- エアロプレスは 2005 年に発売された、浸漬と加圧を組み合わせた器具です
- サイフォンは蒸気の圧力と冷却による吸い戻しを利用する、高温で香りが立ちやすい器具です
- ターキッシュコーヒーの文化はユネスコの無形文化遺産に登録されています
- モカポットは蒸気の圧力で抽出する、家庭向けの濃いコーヒーの器具です
関連する章とツール
出典・参考文献
- About AeroPress, Inc. and Alan Adler(AeroPress, Inc.)
- Turkish coffee, not just a drink but a culture(UNESCO Courier)
- An idea ... with a mustache. Do you know who invented the Moka?(Bialetti)
- Coffee Grind Size Chart(Honest Coffee Guide)